時は過ぎて夕方。帰り道。

 本日の授業は全て終了、もちろん1コマは遅刻しなかった。

 ケータイを開くと、昼休み中に誕生日メールを送った弟からの返信があった。


『いま電話してもいい?』


 受信時刻を確認すると、3コマの授業が始まったあとだった。着信履歴はない。


 こっちからかけてみるか、電話。

 部活か何かをやっていたらでないかもしれないなあ、と思いながら呼び出し音に耳を預ける。

 5回目のコールで、聞き慣れた声が聞こえた。


『沙苗ちゃん?』

「薫~!久しぶりー!誕生日おめでとう!16歳だね~!」

『…テンションたっかいね。ありがとう。っていうか昼間にさ、メール返信したんだけど、』
「ごめん、今見た」

『………』

「ごめんって!授業だったからさ~」


 聞き慣れているはずの弟の声すら懐かしいと思えるのは、きっと約2ヶ月ぶりだからなんだろう。引っ越しのときに手伝ってもらったとき以来だ。

 不機嫌そうな声をだしながらも本当は嬉しいんだ。わかるよ、姉だもん。可愛いやつめ。


『授業は?全部終わったの?』

「うん。そっちはー?」

『今から帰るとこ。駅で電車待ってる』

「部活とか入んなかったの?」

『そんな余裕ないよ。資格とるための検定とか、いっぱいあって大変だし』

「そっか~。商業系だもんね」


 普通科の高校をでたあたしにとっては未知の領域だ。


『沙苗ちゃんは?サークルとか入ってないの?』

「入ってないよ~。実技系の授業の課題とかあるとなんだかんだで忙しいし。バイトしたいけど、まだちょっと無理そうかな」


『そっか…翔ちゃんとは上手くやってるの?』

「……え、"上手く"、って?」


 しまった、変な間ができてしまった。

 今朝起きたことが、いっきにフラッシュバックする。


『なにが。変な意味じゃないって。喧嘩とかしてない?』

「…あらやだ、あたしらいとこが今までに一度だって喧嘩したことあったぁ~?」

『ないね』

「でしょ?だいじょぶだよ、なかよくやってる。あ、翔ちゃんも"おめでとう"って言ってたよ」

『……』

「薫?どした?電車来ちゃった?」


 少しの間のあと、笑い声のような息のかかる声が聞こえた。