「まあ、本当に体調悪くなったら、無理しないでちゃんと言いなよ?」


 額から離れた手は前髪をすいて、ポンポンと軽く頭を叩く。

 優しい手と、優しい目。


「…あはは、大丈夫だよ~。全然、元気だし!あ、遅刻しちゃうから行くね!」

「いってらっしゃい。気をつけて」

「翔ちゃんもね。戸締まりとか。いってきまーす」


 パタン。

 ドアが閉まった瞬間、安心している自分がいた。


"過保護じゃん"

"やっぱり変だよ"

"すきなんじゃないかなーって"

"さなが、しょーちゃんを"


 だめだ、あたし。やっぱり気にしてる。

 翔ちゃん、当たってるよ。鋭すぎるよ。あたし、さこねぇとあの話してから、なんか変だ。

 間接ちゅーだ~とか、おでこ触られた
~とか、頭撫でられた~とか、いちいち気にしてる。意識してる。

 もしかしたら恋愛対象として見るって、こういうことなのかもしれない。意識している時点で、たぶんあたしは翔ちゃんのことを男の人として見ることができている。

 でも、翔ちゃんは翔ちゃんだ。小さい頃から優しくて、だいすきで、いとこな翔ちゃんだ。


"すきでやってるんだから"

"変に気ぃ遣われる方がつらい"

"さなの顔見ないと、目ぇ覚めないし"


「ああああああああー…もう……っ」


 だめだ!ほんとにあたし、こういうの向いてない!!

 難しいことは時間があるときにゆっくり考えよう。

 さしあたっての目標は、これから始まる1コマの授業に遅刻しないことだ。