4月の頭くらいまでは、朝食くらいは自分で用意して食べていた。しかしそれも"起こしに来てくれるついでに食べてきなよ"という翔ちゃんのご好意によって終わりをむかえたのだった。


「さな、味噌汁味見して」

「はーい」


 今日の朝食は和食だ。

 渡された小皿の味噌汁をすする。


「しょっぱくない?」

「ううん、ちょうどいい」


 少しだけ汁の残った小皿を返すと、翔ちゃんはそのままそれを口に運んでいった。

 あ。


「うん、ちょうどいい。じゃあ、ご飯よそって」

「あ、はーい」


 間接ちゅー、だ。

 さこねぇと話したことで、やっぱり少し考えてしまった。思えばあたしは今までに翔ちゃんをそういう対象として見たことがなかったかもしれない。

 改めて考えてみると、どうなんだろう。


「さな?」

「………ん?あ、ご飯どんくらい?」

「体調、悪い?」

「え?全然。ちょっと眠いだけ。で、ご飯は?」

「…あー、うん。普通で」

「はーい」


 しゃもじを持ったまま固まっていたからか、変に思われたらしい。

 一緒にいるとき考えるようなことじゃないな。反省。

 翔ちゃんの"普通"はあたしとそんなに変わらない。ご飯の量も、価値観も。

 ご飯と味噌汁と焼き鮭と野沢菜、味噌汁の具は豆腐と、あたしのすきなもやし。


「いただきまーす」

「いただきます」


 咀嚼をしながらふと目に入ったカレンダー。何か忘れている気がして箸を置く。キャンパストートを手繰り寄せてスケジュール帳を引っ張り出した。

 今日の日付のマスを見て"あぁ、やっぱり"と納得する。


「どうした?」

「今日、薫の誕生日だったの今の今までスッカリ忘れてた…」

「あぁ、そういえば…いくつだっけ?」

「16…かな。高1だから」

「若い」

「翔ちゃんだって若いじゃん」

「あっという間なんだよ、ハタチすぎるとさ」

「え~」

「"おめでとう"って伝えといて」

「はーい」


 ちなみに薫とはあたしの弟のことだ。比較的、姉弟仲はよいと思われる。

 春休み以来、会ってないしなあ。あとでメールでも送っておこう。