2人が帰路についたのは、午後9時過ぎ。完全に日は落ちて、真っ暗な中を祥子と美代は、バス停のある大通りまで、歩いていた。

「あーぁ。すっかり暗くなっちゃった…。私はバスで15分ぐらいだけど、祥子は1時間くらいかかるでしょ。」

「うん。さお里ヶ丘までだから。」

「しっかし、祥子も物好きだよね。さお里ヶ丘って言えば、幼稚園から大学まである超セレブな学園があるじゃん。なんでさお里ヶ丘の高級住宅地からわざわざ…?」

「ああいう所は肩がこるじゃない。せっかくあの堅苦しい両親から離れられたっていうのに。」

大通りには、たくさんの車がテールランプの尾を引きながら走っていく。

そんな車の往来に目を向けた祥子の横顔は、悲しく照らされていた。

「ねぇ、美代? 私、付き合ってる人がいるの。今度、紹介するね。」

祥子の表情は暗く、どこか遠くを見つめているようにも見えた。


「うん。楽しみに待ってる。」

いつもの美代なら、自分を差し置いてと笑って言ったかもしれない。
でも、今回ばかりは、祥子の雰囲気にのまれて、それしか言えなかった。

それから、1週間も経たないうちに美代はこの日のことを後悔する事になる。


もし、あの時、いつものように笑っていれたなら、何か変わっていただろうか。
祥子は行方をくらまさずにいれたのだろうか、と。