午後7時、いつもなら家でお風呂でも入りながらお気に入りの音楽を聴き、ゆっくりと過ごす時間。
祥子と美代はまだ研究室にいた。

「信じらんない! あの鬼教授。こんなか弱いレディ2人をこんな遅い時間までこき使って!!」

「しょうがないよ、私たちの仕事だもん。さ、あと一息だよ。」

2人しかいない研究室には、妙な静けさがあって、そんな沈黙が余計に許せないのか、美代はより一層、声を大にして叫んだ。

研究室の室内は正方形に近い形をしていて、三方の壁際に置かれた本棚には、文献や今の祥子たちでもさっぱりな難しい本がぎゅうぎゅうに詰め込まれている。

そんな圧迫感の中、部屋の中央に置かれた机を挟んで向かいに座る祥子はクスクスと笑いながら言った。

「祥子んちの親、心配しない?」

「うちは、私とメイドたちしかいないから。」

祥子は、テーブルに散乱した資料の中から何枚かを選り分けて、丁寧にホッチキスで閉じていく。


「そのメイドさんたちは、どーなの? 心配しないの?」

「……。ほら、美代。サボってないで手を動かして。」


明らかに話をはぐらかされた美代は、ため息をつくと「はい、はい。」と、まだ50枚近くある資料の山に手を伸ばした。