閑静な住宅街。
その奥にある大きくて立派なお屋敷は、資産家の一人娘、古谷祥子が数人のメイドと暮らしていた。

「お嬢様。今日のお帰りはいつ頃に?」

「今日は、迎えは要らないわ。
 …じゃぁ、いってきます。」


黒塗りの車から颯爽と降り立った祥子は夏の眩しい陽射しに目を細めた。

風になびく細くて長い黒髪を、ゆっくりと耳にかける仕草に周りにいるみんなの視線が集まった。

「大学院生にもなって、あんたも優雅なもんだねぇ~。」

祥子の後ろから駆け寄る、友人の佐藤美代は祥子の肩を叩いた。

横に並んで歩き始める二人は、目的地の教授の待つ研究室に向かう。


「一人暮らしを初めてから、みんな今まで以上に心配性になっちゃったみたい。」

途中、祥子が少し呆れたように言った。

「25歳にもなって、送り迎えなんて恥ずかしいって言ってるのに。」

「まぁまぁ。それだけ愛されてるって事だよ。それにあんな車で毎日送り迎えしてくれるなんて羨ましい限りだよ。」

美代は最後に祥子の顔をいたずらっ子のようにニヤリと見つめ、「ねっ、お嬢様。」と笑った。

「もー、からかわないでよ。」