それからしばらく、祥子はペルと距離をおいていた。

「お嬢様、明日の提出課題の事で連絡があると、お嬢様のご学友の方からお電話が。」

「提出課題…。そんなのあったかしら?
 ……誰? 美代?」

「いえ、美代様ではありません。男性の方だったようですが。」

「……分かった。今 行くわ。」

祥子は何かにピンときたように、表情を暗くした。


「もしもし、お電話変わりました。祥子です。」

「祥子…。」

何事もなかったように応対する祥子に電話の相手は、頼りない声で祥子の名前を呼んだ。

「あなたも、そんな声出すのね。」

「……。」


「…ごめん。可愛くなかったね。」

祥子は俯いた。
受話器を持つ手が微かに震える。


「 謝るのは、私の方だ。すまない、君を悲しませてしまったね。」

「あの時、あなたの方が悲しそうだった。あれはどういう意味……?」


「私はきっとこれからも君を傷つける。」

「どうして……そう思うの?」


「……。」

「ねぇ…。どうして?」


「………私には愛しい君にさえつかなければいけない嘘があるんだ。

守らなければいけない秘密が…。」


彼の低音の声は、切なげに祥子の耳をくすぐった。


「今の私には君に真実を打ち明ける勇気は……ない…。」

「…………わよ。」

「祥子?」

「待ってるわよ!!」

「ま、待ってるって……。」



「そんなの、私が待ってれば良いだけの話じゃない!!」