~一週間前~


ガヤガヤ…


いつも通りの会社の食堂。

友達
「ねぇねぇ、神谷君だっけ?
 そのこと今、どんな感じ⁇」

友達
「うまきいきそうなの?」


「そうね…。来週ね、
 またごはんに誘われてるんだぁ」

友達
「そうなんだぁ、いいなぁ、ステキだったもんね!
 神谷君!」


私はごく一般的な普通のOL。

ちょっと物足りなさはいつも感じつつも
満足した毎日。

雑誌でおいしいお店を調べて
夜はたまに女子会。

恋愛や結婚の話で盛り上がる。

…あの電話がかかってくるまでは。

もう少し恋愛して、結婚して、
普通な幸せを望むどこにでもいる28歳。


『着信履歴:父』


「あれ?なんだろ。
 こんな夜遅くに…」

電話を折り返す。


「…あ、もしもし。
 どうしたの?

 うん、うん、

 えっ、え――――――⁉
 …と、倒産⁇

 うん、うん、うん…

 大丈夫、私もいくらかは貯金あるし、
 すぐに借金なんて…

 …え、ごごごご五千万⁉」

一瞬目の前がクラッとする。

父が脱サラして始めた印刷工場。

小さい頃はあの匂いが好きで、
学校帰りによく立ち寄った。

折しも父の会社も不況のあおりを受けた形だ。

何不自由なく育ててくれた親には
とても感謝している。

1人娘として本当に可愛がってくれた。


「…だからこそこんな時に助けなきゃ。」

決心したもののこれからどうすればいいんだろ…

この時はまだ何も考えることができなかった。


「なんとかしなきゃ」

この強い決心が私の人生を大きく変えることを、
この時はまだ知る由もなかった。


そして、私の前に現れたのは―――