彼が柔らかく、悲しそうに笑って、


しっかりと、背中を抱きしめた。


「…先生…?」



「…そうだ。俺はずるい…。」


腕の力が強くなった気がした。


「だから、おまえもずるくなれ。」



「俺を踏み台にして、いい女になれっ。」




それは、『さよなら』?



行かないで、なんて言わないから、


「だから日和…」


彼の腕をふりほどいて、涙をふいて、しっかり目を見据えて、


「いい女になります、絶対。」


「いい女になって、見返しに行きます!」


彼が目を見開いた。


「だから、だからそれまで…」


すがるように願った。


彼が笑って、私の頭に手を乗せた。


大きな、温かい手を。


「ああ、待っててやるよ。」


ねぇ、先生、待ってて?


私を見て、名前を呼んで、


きっとまた、振り向かせるから。





【第三章:END】