『ごめんなさい…』



詩織は頭を下げたまま涙声で謝った。



『どうしてだよ…。俺…何かしたか…?』



俺の問い掛けに詩織は大きく頭を横に振る。



『健吾は悪くない…。健吾のことを信じて待ってなかった私が悪いの…。』



『俺達、付き合って6年だぞ。ここで終わるのか?』



詩織は何かが吹っ切れたのか、今まで言えなかった思いを口にした。



『寂しかった。健吾の隣にいても、健吾は私を見てくれなかった。
健吾は私じゃなく、夢を…カメラばかりをずっと見ていたから…。』




何も言えなかった…



見合いなんてするな、って引き止めることも、



もう寂しい思いをさせないって言うことも



俺の口から出てこなかった。



詩織の言ったことは本当だからと認めたからだ。





『………本当にごめんなさい。

さよなら………』



静かに席を立ち、詩織はレストランを後にした。



彼女が履いていたハイヒールの音が俺の背後で響いている。



詩織は一度も止まって俺の方を見る気配がしなかった。




呆気ない別れだ。



こうして俺達の6年間は終わったのだった。