電車に揺られながら、今更、ひとり罪悪感に苦しむ私、梨本明(あかり)。
「あ、あのさ、花火、一緒に見にいかない?」
頭の中でぐるぐると谷崎のセリフが回り続ける。
私はそのたびにひとつ、ため息をついた。
私は最低なことをした。
異性を花火に誘うということは告白とイコールで結びつけられるようなことであり、
それに対し、YESでもNOと言うでもなく、とぼけたふりをするなんて、他人(ひと)の渾身の勇気をないがしろにするようなことをしてしまった。
谷崎は誠実で純粋であると知っているからこそ、さらに悪く感じてしまう。
そうわかっていても、私は、あの時も今もなんて答えればいいかわからない。
もし過去に戻ることができて、もう一度あの場面をやり直せるとしても、
きっと私は同じことを言ってしまうのだろう。