「下駄、大丈夫?」
「あ、うん。大丈夫だよ。」
「俺、花火がよく見える穴場知ってんだけど、ちょっと遠いんだー。まだだいぶ歩くけど、歩ける?」
「ふふっ」
下駄は靴擦れしやすいことを知ってるのか、さっきから気にしている様子の谷崎。
その優しさが嬉しくて、つい、にやけてしまう。
「...なんで笑ってんの?」
「ううん。なんでもない!うん。歩けるよ?穴場行きたい!」
そう笑顔で伝えると、谷崎は、ん、と言って左手を私に差し出す。
「迷子になったら、困るから。」
私を見ずにぼそっと呟いた谷崎。谷崎の耳の先が真っ赤になっているのを見つけて、私まで赤くなってしまう。
「うん...」
そう言って私は自分の右手を重ねた。
手を出した時は、手汗ちゃんとふけばよかったと後悔したけれど、
谷崎の手のひらに触れた途端、安心して、そんなことどうでもよくなった。
私よりも一回り、二回り大きくてごつごつした手のひらに、程よく筋肉のついた腕に
谷崎を“男性”だと感じれずにはいられなくて。
自分の鼓動が速くなっていくのを感じた。
谷崎は何も言わずに歩きだした。