「行こっか。」
しばらくの沈黙を破り、谷崎はそう控えめな声で言うと、私が返事するより先に歩き始めた。
「うん...。」
谷崎の背中にそう返事をして、私は谷崎の後を追った。
周りのざわめきとは一線を引いたように私達の間には静寂が流れていた。
ズボンのポケットに手を突っ込んで歩く谷崎の後ろ姿を見ながら、着かず離れずの距離を保ちつつ、着いていく。
部活帰りに並んで帰る時より遠い距離。
けれども、谷崎の歩くスピードはいつもよりゆっくりで
それは浴衣の私のペースに合わせてくれていることが感じられて、とても温かな気持ちになった。
さっきまで人込みはまだらだったはずなのに、
公園のある大通りに出ると一転、多くの人で溢れ返っていた。
谷崎はなおも進んでいく。これだけの人がいるんだ。見失うかもしれない。
ちゃんと着いていかなくちゃ、そう思ったとき、谷崎が突然振り向いた。