春彦が廊下から姿を消すと、嶺は閉ざしていた口を開いた。
クスクスっと、笑いを含んで。

「…ほんと、面白いね」

その笑いをこらえるかのように、口を手でおさえながら、嶺も再び足を進めた。

履きつぶした、スリッパのような上履きの音だけが、廊下に響く。

「負けるのキライ」