遠い君へ。

授業は去年よりもレベルが上がった。
最初からついていけない。
あたしは、この高校に合格できたことが奇跡としか言いようがなかった。
中学のとき何故か勉強ができなくて5教科の合計点数が必ず100点台だった。
中学2年生のときに家庭教師を始めて、担当してくれた先生が【こんなに教えてるのに143点って何事…?】って学校から返却されたテストを見ながら驚いていた。
【咲ちゃんの場合、周りの人が5回解くとしたら、30回はやらないと】
「えーっ・・・そんなに・・・。みんなより30倍か・・・」
【30倍だと150回になるね。うん、そうだね、そのくらいの方がいいよ】
みたいな会話をした記憶がある。
理数系も文系もとても苦手で、唯一好きだった教科は美術かな。
音楽は先生に嫌われてたから嫌いで、体育は先生から目をつけられていたから嫌いで、家庭科は調理実習だけ好きだった。
美術はおばあちゃん先生で、その先生があたしにとっても優しかったから大好きだった。
たくさん褒めてくれたから、あたしも頑張って授業を受けた。
【咲さんはかわいいね】って何回も言ってくれた。
その先生に好かれていたおかげで3年間、美術の評定がオール5!

でもこの高校に来て、美術は一気に苦手分野になりましたけどね(笑)
あたしってどんだけ先生に影響されるんだろう…。
好きな先生の教科はとっても頑張れるのに、苦手な先生だと途端にやる気がなくなる。

【本当だよね~。咲がこの学校に受かったって聞いて、落ちたのに受かりたい願望が強すぎてとうとう頭おかしくなったのかと思ったもん】
「ひどいなぁ」
【まぁ人のこと言えないけど】
「あずきは200点台だったよね」
【うん。数学の再テスト必ず一緒に受けてたもんね~】
「んだ。懐かしいね」
【あんなに勉強ができなかったうちらが、ここにいるってすごくない?】
「本当にすごい。これ現実だよね?」
【もう2年目ですよ?咲さん、現実っす】

あたしは家庭教師を中3の春に辞め、あずきと一緒に夏から地元で有名な塾に通った。
そこで徹底的に勉強の仕方を学んで、毎日毎日勉強をしに通った。
あたし達は、最初はのんびり楽しくわいわいしながらやっていた。
そしたら塾の先生が笑いながら、
【お前らはヤンキーが通うところ受験するんでしょ?】
「え?」
【え?そうでしょ?だってここに遊びに来てる人が、合格するわけないだろ?】
「・・・。」
【自分たちで自覚してないの?】
場違いって言われたみたいで、腹が立った。
こんな塾辞めてやる!!!!
って本気で思ったのに、あずきが【見返そうよ。あのカス。あいつなめてんだようちらのこと】って言った瞬間、単純なことにスイッチが入った。
要するに、ここに居られることも、あずきのおかげ。

意味不明な数学の授業が終わって、机に伏せて寝ていると机をトントンとされた。
顔を上げると、恥ずかしいところを度々目撃されている永人くんが立っていた。
「なーに?」

【‘友達になってあげよーか?’】

「ふぁっ??」
【だって友達少ないみたいだから】
「え・・・あ、あはは…」
何なのこの人!何か耳障り目障り!
「永人くんこそ友達少ないんでしょ」
【何言ってんの?】
頭大丈夫ですかー。的な小馬鹿にしてるような口調で返ってきた。
「永人くんって性格悪い?」
【は??】
「あ、ごめん」
【許さない】
そういうのどうでもいいー…(笑)
え~ごめんね~許してよ~…。
とかっていう答えを求めてる?
あたしは敢えて、「おっけー」って言う派♪(笑)
「おっけー!」
【了解】
「え・・・!?!?」
颯爽と背を向けて行っちゃった。
「…何あの人」
変な人。まぁいいや。
かっこいい人って中身はそうでもなかったりするよね。