遠い君へ。

少し早めだけど、お昼を作ることになった。
「え?こんなに材料使うの?」
【うん!】
「さっきお腹いっぱいって言ってたのに」
【食べるときには空いてると思う!】
あずきは照くんの話を始めた。
映画を見ている時【キュンキュンするね】って優しい声で話しかけてくれたときに、ちょうどあずきがウルウル来ていて、それを見た照くんが優しく笑ってくれたみたい。
【その時ね、やばかった。うちは映画よりも照くんにキュンキュンしたもん】
「やばいねそれは!!それで、照くんのことは好きなんでしょ?」
【・・・好きなのかなぁ?】
「絶対好きでしょ!!」
ほらほら、すぐ顔が赤くなった。
もし照くんがあずきを好きになったら、嬉しいな。
【咲は、照くんのこと好きじゃないの?】
「え?あたしが?」
去年照くんのことが好きだったけど、今は普通の友達としか思っていない。
でもあずきには、照くんのことを好きだと話したことはない。
だからびっくりした。
「友達としか思ってないよ!」
【本当に?遠慮しなくていいんだからね?】
「ううん!遠慮とかしてないよ!」
嘘はついていないということを信じてもらいたくて、とっさに「永人くんの方が好きだし!!!!」って言ってしまった。
本音は照くんの方が好きなんだけど…(笑)
好きっていうか絡みやすいみたいな。
照くんは、オープンで優しくて元気だし、周りのこと考えてくれるから、人として尊敬もできる。
そんな照くんとは逆に思える永人くん。
永人くんのことはまだよく分からないけど、今のところ不愛想でどエスで何考えてるのか分からない人。多分、自分の気持ちをうまく表現できないのかな?っていう感じ。
でも見た目はかっこいい。
【そうなの!?】
「うん」
【好きになったの??】
「友達としてだよ?」
【仲直りした甲斐があったね!】
「そうだね。ありがとー!」
【そろそろかな♪】
「何が?」
【来るの】
「ん?何が?」
【あ、次桃の缶詰切って~!】
「はーい…?」
フルーツポンチは作る予定なかったのに。
なんか変。
なんか量多くない?
「あれ?お母さんどこに行くの?」
お母さんはいつも靴を履く前に【行ってきまーす!】って必ず言うのに、靴を履いて黙って出ていこうとしていた。
手には、財布と車の鍵。
【車の掃除】
「車の掃除?」
【だってー、あずきちゃんも咲も相手にしてくれなくて暇なんだもん】
「え~…(笑)」
【だから行ってくる!お昼できる頃に戻ってくるから♪
わ~二人が作ったご飯楽しみだな~♪】
本当に嬉しそうに出て行った。
可愛い性格だけど、たまに少し不安になる。
こんな子供みたいな大人っているのかな?って(笑)
しっかりしているところも当然あるけど、おっちょこちょいなところの方が強い。
「あずきのお母さんはどんなお母さんだった?」
【うちはね~、どうだったかなぁ】
あずきは、小学5年生の時に親が離婚をしてお父さんに引き取られた。
【マイペースで、優しくて、お菓子作りはよく一緒にしたぁ】
「へぇ~…。会いたい?」
【うーん…、うん。会いたいかな。元気なのか気になるかも】
「だよね。どっちかが車の免許取ったら一緒に会いに行きたいね」
【えっ!?行きたい!!一緒に行ってくれるの?】
「うん!!もちろん!」
あずきは嬉しそうな顔をした。
いつも何も言わないけど、本当は寂しくて心細く思っているのかもね。

もっとあずきの心に寄り添う。って決めた。