「あの…サックスはないんですか?」
「あ、そうだよね。サックスはうちのオーケストラでは使ってなくてね。自分の楽器はある?」
「いいえ。中学のときは学校が貸してくれたので…」
「そっかぁ。普通そうだよね。他の楽器でやったことがあるのはない?」
「特にはないと思います。」
「そーだよね。他の二人は?やりたい楽器ある?あ、後音楽経験者か聞いていい?」そう先生が聞くと、レイナちゃんは即答で言った。
「私、ホルンがしたいです。音楽経験者です。」あら…⁇レイナちゃんって、音楽経験者なんだぁ。ピアノとかかな。
「へぇー、だけど初心者にホルンは珍しいねぇー。嬉しいけど…音楽経験者ってピアノとかやってたの?」先生も私と同じ考えのようだった。まぁ、普通音楽経験者だったらピアノだろう。レイナちゃんは絶対にそういうだろうと思っていたが、答えはちがった。
「あ、違うんです。個別のレッスンを受けてたんです。ホルンの!」えっ⁉こ、個別?私よりハードル高いよ!当たり前か。あ、れ?レイナちゃんは確か、寮泊りだったよね?どうやって?
「レイナちゃんは寮泊りだったよね?」
「あっ、覚えててくれたんだぁ。嬉しい!あ、ごめんね!話ずらして…確かに寮泊りだったんだけど、週一で通ってたの!お母さんがお金出してくれて!楽しかったなぁ。」レイナちゃんをみて、レイナちゃんも音楽好きなんだと思ったのと同時に、負けられないとライバル心を抱いてしまった。
「じゃあ、君はホルン希望な。あとで俺の前で吹いてみろ!それで決定をする。もう一人の子は?」
「あ、はい。音楽経験者じゃないです。希望楽器はありません。ですが、チアをやっていたので体力には自信があります。」堂々としたいつも通りの答え方だったが、その片隅には少し不安そうなちーちゃんの顔があった。そりゃ、そうだろう。私は別として、レイナちゃんまで音楽経験者だったのだから。私だったら、諦めそうだと思い、やっぱりちーちゃんの度胸はすごいとおもった。
「チアか。まぁ、とりあえず3人とも音楽室準備室にこい!」先生はとりあえず…という形で私たちを準備室に連れて行った。
「えーっと…チアの!」
「高碕です。」
「そう、そう。高碕さんね、ちょっとこの楽器持っててね。」先生はトロンボーンという縦に長い楽器をちーちゃんに渡した。
「あ、意外に軽い。」普通の人だったら、意外に重いというところだが所詮、ちーちゃんなので意外に軽いんだろう。
「それ、トロンボーンっていうからね。高碕さんにはそれが一番いいと思うよ。」先生は微笑んで言った。
「はい。頑張ります。」
「頑張ってね。次、えーっと…ホルンの!」
「秋川です。」
「秋川…さん。ホルン経験者だったんでしょ?覚えてたら、ちょっと音楽室に来て!今すぐに。」
「はい。」うわ、もう吹けちゃうの⁇忘れてないのかなぁ⁇
「なんにも説明しないけど、大丈夫だよね?」
「ハイッ。」音楽室に入った先生とレイナちゃんを私たちは真剣に見つめていた。
「レイナちゃん、大丈夫かなぁ⁇」
「普通の人だったら、忘れてるだろうね。」
「オーディションみたいな感じがしてヤダぁ。」
「あ、始まるよ」先生が指示を出したようだ。
「まぁ、基本的にロングトーンと…好きな曲なんでもいい、吹いてみろ!」
「ハイッ。」指示が入ってからも私たちは心配で喋っていた。
「ねぇー、ロングトーンって何⁇」音楽には疎いようで、ちーちゃんが聞く。
「一定の音をできるだけ長くのばすことだよ。」ロングトーンというのはずっと同じ音程、高さを長く保つことで、基本のひとつだ。
「へぇー、やっぱ、私全然知らないな。」そんなことを言うちーちゃんは珍しい。いつも自信満々でいるちーちゃんが不安そうな表情になっている。
「私もそうだったよ。ホントに!」
「うん…あっ!レイナちゃん!」
「どうだった?」
「ホルン決定だって!」ちーちゃんとは反対にそう笑っているレイナちゃんを私は初めてみたのかもしれない。
「よかったね。」
「あ、後アミちゃん。音楽室に来てって!」
「え?」
「楽器決めるんじゃない⁇」
「うん…行ってくる」