大切なもの

「せっかくだから私の家、来なよ。敦も来るから」

………え!?

「時間、無いの?」
「あるよ」

思わずそう言ってしまった。
休み時間は、とっくに終わっているはずだけど。

「じゃあついてきて」

アズちゃんが私の手を握る。
そのとたん、私の指先がピクピク動いた。
アズちゃんが握ったのは、右手だった。
そう思ったとたん、手が動いた。
振り払ったのだ。

「薫ちゃん」

アズちゃんの顔がひきつる。

「ゴメン。私、絵を描いているから、右手が反応しちゃって」
「私の方こそ、ゴメン。急に家に来い、なんて言って。敦、行こう」
「待てよ。おい!!アズ!!」

アズちゃんが走り出した。
私の言葉に、ショックうけたんだ。
罪悪感が残る。

「ゴメンね。アズ、たまにこうなるから、気にしないで」

敦くんが励ましてくれるけど、分かってる。
私が悪いんだ。
アズちゃんに謝らなきゃ。
元陸上部の足が動き出す。

「あ、大山さん!!」

敦くんの声を無視して走り出した。