「明日は何時から告別式だっけ?」
「確か午前10時からだったな。麻弘の友人も、本当にみんないい人たちばかりだな」
父は、くつろぎなら、スケジュール手帳を見た。
「今日は、このあとお通夜か。なんか変な感じ」
私はため息をついた。
「つい昨日まで生きていたのにね。なぜこうなったんだろうね?」
優実さんが、私の言葉を代弁してくれた。
「そういえば、私も、デジャヴじゃないけど、友人と海に行っていて、そろそろ帰ろうってときに、腕につけてた念数珠がプチッて切れたさ。虫の知らせってやつだったんだね」
佑香も私と同じく胸騒ぎをしていたという。
「あれじゃない? 小さい頃、よく遊んでくれたから、麻弘が別れの挨拶しにそっちに行ったんだよ」
「そうかもね。私たち、年が近かったから、小さい頃はよく遊んだもんね」
などと、談笑をする。
そこへ、そろそろ、お通夜が始まるとの知らせを受け、私たちは、大広間へ移動した。
お寺ではないので、お通夜も椅子に座って行われる。
献花台には菊の花が添えられてあった。
葬儀屋に任せてあるので、お寺の住職などが何人くるのかとかは把握していない。
だが、立派な椅子が置いてある事から、そこに住職が座るのだろうと予測ついた。
祭壇の周りを見渡すと、父の会社から、私の会社から、彼の友人たちからと仏花が送られてきたのか、飾られていて、とても華やかな雰囲気だ。
(すごいな)
私は圧倒された。
しばらくして、お経が始まると、何人かが別れを惜しみ、すすり泣くのが聞こえてきた。
「お焼香をお願いします」
そう言われて、父から順にお焼香が始まった。
私は、
(どうか安らかにお眠りください)
そう心の中で呟いた。
やがて、お経も終わり、住職による、これまでの麻弘の経歴をつらつらと語られた。
「北海道大学・工学部に入学し……」
その言葉を聞くと、涙がこぼれた。
遺体になったといっても、目の前には麻弘がいる事には変わりない。
棺の蓋が開いて、
「何してるの? まだ、生きてるよ」
そう目を覚まさないかと、無駄な期待をしてしまった。
「棺は此方に安置しておりますので、どうか、最期に言葉をかけたい方は、前の方へ…」
そう声をかけられ、ざわざわと周りが動き出した。
私たちに遠慮をし、じっとしている彼の友人たち。
「あの…」
「麻弘に最後の挨拶ですか? どうぞしてください」
「ありがとうございます。失礼します」
そう言って、棺の前に行き、顔を見ながら、
「川村、助けてやれなくて、マジごめん!」
謝罪をする姿は、なんとも切ない。
「お前がいないと、どうやってあの課題終わらせればいいんだ? ドイツ語、真面目に習っておけばよかったよ」
などと、後悔する声もちらほら聞こえている。
麻弘は、いなくてはならない存在だったんだね。
そう思うと、私は、胸が痛くなった。
(銭函に行かなかったら、まだ生きていた?)
私は一つの疑問が浮かんだ。
海に行って溺れたから死んだんだったら、もしも、海さえ行かなかったら生きていた可能性はあったよね。
今回は、自然が相手だし、誰も責められないけど、麻弘の周りには、こんなにも、麻弘を必要としている人たちがいて、それを考えると、本当に悔しくてならない。
医学研究が進んで、将来的に、止まった心臓が再び動き出すようになったら、死ぬなんてこともなくなるんだろうか。
私は永遠にありえない事を想像してしまった。
現実――、何度も言うようだけど、麻弘は亡くなっている。
明日には、完全に麻弘とは永遠の別れになる。