「あまり食べれない。そんなにお腹すいてないし…」
本当は、私はお腹はすいていたかもしれないが、あまりにもショックで、食欲がどこかいってしまった。
「お母さん、無理に食べろって言うのどうかと思うよ」
「優実…、でも、暑いからって何も食べないと…」
伯母は自分の娘の優実さんに言われて、私にあれこれ言い過ぎたのかと口ごもる。
「麦茶でもいいから、飲み物あったら、それ飲むだけでも違うよ」
優実さんに言われて、私は
「じゃ、伯母さんたちも飲もう」
コップを出して、冷蔵庫から麦茶を取り出すと入れた。
「そうだね。まだ、真奈美たちが戻ってきてないもんね。しかし、急な話だったね」
伯母はテーブルに着きながら、私が入れた麦茶を受け取ると、コップ半分まで飲んだ。
「ほんと、そうだね。全然信じられないわ」
私も、麦茶を飲み、ほっと一息ついた。
「ただいま……」
玄関の方で声がして、伯母が私より先に動いて、玄関の方へと向かった。
「真奈美、先に来てたよ。辛かったね」
「姉さん…、何がなんだか…」
母は、伯母に抱き付き、すすり泣く。
「お母さん…」
「幸恵…。ほんと、最後の最後でバカなんだから…。泳げないのに」
母は、この日初めて、麻弘をバカだと言った。
「ぼんやりしてられないよ。あ、すみません…、こちらです」
伯母が気丈に振る舞い、業者を案内する。
その業者の手には、タンカーに横たわって、両手を胸の前で組んだ麻弘がいた。
それを見た瞬間、本当に、麻弘は亡くなったんだとわかった。
でも、目を覚ますだろうとも思っていた。
運ばれた部屋に行き、私は、
「麻弘…、麻弘…」
呼びかけてみた。
やはり、目を覚ます気配はない。
麻弘の死に顔は、海で溺れたと聞いていた割に、綺麗で、生前と変わらない。
動かなくなった身体。
ふと思い出した。
母方の祖父が亡くなった時も、こうして眺めていたっけ…。
けれど、あの頃と違うのは、頭では亡くなった事は理解していても、心がそれを認めようとしていない。
「ちょっと、黙ってないでなんとか言いなさいよ」
私は、麻弘の肩を揺らした。
呼吸もしていないし、心臓が動いている様子もないから、やはり、麻弘は亡くなっているのだ。
「幸恵、こっちに来てなさい」
「うん」
私は、麻弘を安置させた部屋から出ていく。
それにしても、本当に暑い。
「ドライアイスで冷やしておきますね」
「すみません、お願いします」
そんな会話のやり取りを聞きながら、私は、麻弘は、身体を冷やされて痛くないんだろうか? そんな事を思ったりもした。
こう暑いと、遺体が傷みやすいため、告別式まで安置する場合、ドライアイスで腐敗を防ぐ必要がある。
麻弘の訃報を聞きつけた彼の友人たちも、ちらほらと見えた。
麻弘を見て、
「うそだろ。何かの冗談だろ」
そう言う人もいた。
私たち家族でさえ、麻弘が亡くなった事を理解できずにいるのだから、他人が理解できないのも無理はない。
母たちは、親戚から、さまざまな人たちへの対応に追われていて、私など眼中にない。
私はただ、麻弘の友人と、ちょっとした会話をする程度だ。
そこへ、麻弘の彼女だと言う女の子が現れた。
「突然すみません。お邪魔します。みぃ、簡単に手を合わせたら帰るよ」
女の子の母親らしき女性が、女の子の後についてきた。
「かわち、こんなの嘘だよ!」
女の子は、麻弘の身体にしがみついて離れようとしない。
「あの…、貴女は?」
私は、女の子に声をかけた。
「私、かわちの彼女だったんです。夏休み、海に行こうって約束してたのに…」
「そうだったの…。この子とそんな約束してたんだ…」
私は半ば独り言のようにつぶやいた。
「はい。かわち…、あ、川村君とは、バイト先で知り合って、お付き合いさせてもらっていたんですよ」
私の独り言のような呟きに、女の子が反応して、喋り出した。
「突然こんな事になってごめんなさいね」
私は、なんだか申し訳なくなって、女の子に頭を下げる。
「いえいえ、全然。確かにすごくびっくりしてます。なんでかわちなんだろって」
「みぃ、そろそろ帰るよ。どうもすみません。お邪魔しました」
女の子の母親が、彼女を無理やり連れだして、頭を下げると出ていった。
本当は、私はお腹はすいていたかもしれないが、あまりにもショックで、食欲がどこかいってしまった。
「お母さん、無理に食べろって言うのどうかと思うよ」
「優実…、でも、暑いからって何も食べないと…」
伯母は自分の娘の優実さんに言われて、私にあれこれ言い過ぎたのかと口ごもる。
「麦茶でもいいから、飲み物あったら、それ飲むだけでも違うよ」
優実さんに言われて、私は
「じゃ、伯母さんたちも飲もう」
コップを出して、冷蔵庫から麦茶を取り出すと入れた。
「そうだね。まだ、真奈美たちが戻ってきてないもんね。しかし、急な話だったね」
伯母はテーブルに着きながら、私が入れた麦茶を受け取ると、コップ半分まで飲んだ。
「ほんと、そうだね。全然信じられないわ」
私も、麦茶を飲み、ほっと一息ついた。
「ただいま……」
玄関の方で声がして、伯母が私より先に動いて、玄関の方へと向かった。
「真奈美、先に来てたよ。辛かったね」
「姉さん…、何がなんだか…」
母は、伯母に抱き付き、すすり泣く。
「お母さん…」
「幸恵…。ほんと、最後の最後でバカなんだから…。泳げないのに」
母は、この日初めて、麻弘をバカだと言った。
「ぼんやりしてられないよ。あ、すみません…、こちらです」
伯母が気丈に振る舞い、業者を案内する。
その業者の手には、タンカーに横たわって、両手を胸の前で組んだ麻弘がいた。
それを見た瞬間、本当に、麻弘は亡くなったんだとわかった。
でも、目を覚ますだろうとも思っていた。
運ばれた部屋に行き、私は、
「麻弘…、麻弘…」
呼びかけてみた。
やはり、目を覚ます気配はない。
麻弘の死に顔は、海で溺れたと聞いていた割に、綺麗で、生前と変わらない。
動かなくなった身体。
ふと思い出した。
母方の祖父が亡くなった時も、こうして眺めていたっけ…。
けれど、あの頃と違うのは、頭では亡くなった事は理解していても、心がそれを認めようとしていない。
「ちょっと、黙ってないでなんとか言いなさいよ」
私は、麻弘の肩を揺らした。
呼吸もしていないし、心臓が動いている様子もないから、やはり、麻弘は亡くなっているのだ。
「幸恵、こっちに来てなさい」
「うん」
私は、麻弘を安置させた部屋から出ていく。
それにしても、本当に暑い。
「ドライアイスで冷やしておきますね」
「すみません、お願いします」
そんな会話のやり取りを聞きながら、私は、麻弘は、身体を冷やされて痛くないんだろうか? そんな事を思ったりもした。
こう暑いと、遺体が傷みやすいため、告別式まで安置する場合、ドライアイスで腐敗を防ぐ必要がある。
麻弘の訃報を聞きつけた彼の友人たちも、ちらほらと見えた。
麻弘を見て、
「うそだろ。何かの冗談だろ」
そう言う人もいた。
私たち家族でさえ、麻弘が亡くなった事を理解できずにいるのだから、他人が理解できないのも無理はない。
母たちは、親戚から、さまざまな人たちへの対応に追われていて、私など眼中にない。
私はただ、麻弘の友人と、ちょっとした会話をする程度だ。
そこへ、麻弘の彼女だと言う女の子が現れた。
「突然すみません。お邪魔します。みぃ、簡単に手を合わせたら帰るよ」
女の子の母親らしき女性が、女の子の後についてきた。
「かわち、こんなの嘘だよ!」
女の子は、麻弘の身体にしがみついて離れようとしない。
「あの…、貴女は?」
私は、女の子に声をかけた。
「私、かわちの彼女だったんです。夏休み、海に行こうって約束してたのに…」
「そうだったの…。この子とそんな約束してたんだ…」
私は半ば独り言のようにつぶやいた。
「はい。かわち…、あ、川村君とは、バイト先で知り合って、お付き合いさせてもらっていたんですよ」
私の独り言のような呟きに、女の子が反応して、喋り出した。
「突然こんな事になってごめんなさいね」
私は、なんだか申し訳なくなって、女の子に頭を下げる。
「いえいえ、全然。確かにすごくびっくりしてます。なんでかわちなんだろって」
「みぃ、そろそろ帰るよ。どうもすみません。お邪魔しました」
女の子の母親が、彼女を無理やり連れだして、頭を下げると出ていった。


