私は話し声で目を覚まして居間に移動した。
「随分とすっきりした顔をしているね」
「二日もろくに寝てないし、横になったらすぐ寝ちゃった」
「時間はちゃんと流れているはずなのに、私たちの時間が止まったみたいになってるね。なんだか、これが葬儀の集まりって気がしないよ」
いつの間にか礼服から私服へ着替えた伯母が、テーブルについて、茶菓子ほおばる。
「真奈美、あんたの家に仏壇置く事になるんだね」
祖母は母の隣に座って麦茶を飲んでいる。
「親より先に逝ったもんだから、この年で仏壇を守らないといけなくなったなんてね」
母が少し皮肉った言い方をした。
「いずれ仏壇を持つ事になるだろうけどさ。親が仏壇を守るってどんな心境だろうね?」
「そりゃ、あんた、とても切ない話だよ。くれぐれもあんたたちは、母さんより早く逝ってしまわないでね。父さんと一緒になるのは嫌だけど、母さんがあんたたちより先に逝くんだからね」
祖母は最中を食べながら話す。
「私たちだって親を先に看取りたい気持ちはあるからね。そういえば、母さんはいつ退院できるの?」
「あと一週間くらいかねぇ。もう病気はしたくないよ。お腹のあちこちに手術痕がついてるから嫌だよ」
祖母は心底ため息をついた。
「麻弘の形見分けって言っても大したないよね。罰当たりかもしれないと思ったけど、麻弘の髪をほんの少し切ったんだわ。お守り代わりに母さんが持っていて」
母はそう言うと、祖母の手に紙でくるんだ物を握らせた。
「真奈美……」
祖母は何とも言えない表情でじっと母を見ていた。
「あとはほら、時計と財布……、どれも男物だし、家で大切に保管しておきたいの」
母は静かに言った。
「それはそうだね。それより真奈美、お寺さんとか決めないとね」
「ちょっとお母さん、あれこれ仕切らない方がいいよ。叔母さんだって疲れているんだから、そうせかさない方がいいって」
そう口を挟んだのは優実さんだ。
「せかしてるわけじゃないよ。ただ、こういうことは早く決めた方がいいの。四十九日過ぎてから決めるのは遅いんだから」
伯母はこれまでの身内の葬儀で、こういう決め事に関しては経験済みで、あれこれ先延ばししないほうがいいと身をもってわかっている。
「先に決めておかないと、うちはどうですか? そういう電話がひっきりなしにかかってくるんだから。葬儀屋ってのは、どこで情報を入手したのかわからないけど、もうとにかくうるさいの。一か所だけ葬儀屋を決めていると他の業者は断りやすいものだよ」
そんな話をしている時に、電話がかかってきた。
「はい、川村ですが」
母は電話に出る。
「四十九日過ぎたらですか? ええ……、はい……、こういうことは私では決められないので、主人にかわります」
母は通話口を抑えて、父と電話を変わった。
「もしもし、お電話かわりましたが……もう訃報がそちらに伝わったんですか、早いですね。うちは近くの葬儀屋を利用すると決めているので申し訳ないですけど、何か機会がありましたらその時利用させてもらいます。では失礼します」
そう言って父は電話を終えた。
「ほら。まるでハイエナのようにこちらの事情を嗅ぎまわってるんだよ。あっちも商売だから仕方ないんだろうけど、やめてほしいよね。優実も幸恵も覚えておくといいよ。麻弘のときの葬儀屋に電話してあれこれ相談したら?」
「その方が早いか。お父さん、名刺とかなんかもらってない?」
伯母のアドバイスのおかげで、今後の話し合いも着々と進んだ。