俊弥が時間を気にする。

きっと、このあと彼女との約束があるんだろう。
だったら、初めから言ってくれたらいいのに。
そしたら、ケーキなんかのんびり食べないで、聞き分けよくすぐにバイバイしたのに。
こんな風に二人でカフェになんか入っちゃったら、もっと一緒に居たいって思っちゃうじゃん。

だから、少しだけ意地悪。

私の気持ちに気付かない、鈍感な俊弥を少しだけ引き止める。
彼女の元へ行きたい俊弥の気持ちに気づかないふりで話しかける。

「ねぇ。その時計、ずっとしてるよね」
「……ん? ああ、うん」

俊弥は、気もそぞろに返事をする。
それでも私は、気付かないふりで話を続ける。

「安物なのに」
「そうなのか?」

分っていて問い返し、俊弥が笑う。