が、その手は彼女の肩に触れず。


あのこは頭のうしろに飛んできたボールを器用に受け取り、そそくさとゴールのもとへ走っていた。



ぼーっと見つめていたが、ガンッと音がして、我に返る。




「っしゃっ」

「すげえ、きよおおお!」



どうやらシュートを決めたらしい。ゴールの網がゆらゆらと揺れていた。




「やっぱきよはきよだな!!」


例の後輩はさけぶ。たしか、あいつが涼夏っていうやつだったはずだ。


「ねえ、で、だれ? この娘?」

「俺の妹ッス!!! きよかっていいまスッ」


たしかによくみると栗色の髪は涼夏の染める前の色に似ている、かも。

大きいくりくりした目や細くてきれいな手の指なんかはそっくり。



「清夏ぁああ」

あああぁぁ……



それにしてもいちいち声がでかい。屋外なのに十分声にエコーがかかっていた。


そういえば部活のときもこいつの声が体育館に響いているような気もする。



「涼ちゃん、公園でバスケするなら、わたしもよんでって言ってるじゃんかっ」


「ワリワリ」


ここは高校ちかくにあるバスケやテニスのコートのある公園、というかグランドというか、そんなところ。


部活がはやく終わり、バスケ部の一、二年で

「あくまで」

遊びにきていた。

俺と涼夏を含めて6人で、コンビニでアイスを食ったあと、ここにこよう、ということになり。

20分ほど前からバスケをしていた。



「そうだ、涼ちゃんっっ、勉強おしえてよっ。来週テストなんだよ!!」

しばらく黙っていたが、いきなり、妹ちゃんが思い出したように早口で話し出した。



「知らんがな!!! 俺に勉強が教えられるとおもってんのか!!!」

アニキも負けじと早口で返す。



……よくきいてみると、年下相手に情けない言葉をならべていた。


顔は可愛らしくて女子からの人気はありそうなのに、いちいちほんとうに声がでかい。

非常に残念な男。


「お兄ちゃんうるさい」




「きよっ…わかったから…勉強おしえ…おし…おしえ」


「なら、俺がおしえよっか?ww」


言い合いになる兄妹が可愛らしくて、とっさに声を出してしまった。

きっと 心にレーダーがあるとすれば、今それは警報音をビービーと鳴らしているんだろう。

やってしまった。

と、思ったのはもう遅かった……。