○女神湖畔、夜
   美しい満天の星空。
   車止めに4駆が止まっている。

○同、車の内、夜
   若林と晶子が話している。

若林「この女神湖はね、戦国の頃には姫が淵
   という沼だった。武田の荒武者に追われた
   諏訪城の美しい姫がこの沼に身を投げた。

   ところがその瞬間、たくさんの蝶が大空へ
   と舞い上がり、その中にひときわ大きな美
   しい蝶がいた。

   きっとそのお姫様だったんだろうね。
   天然記念物の大ムラサキはその末裔だ」

   晶子は黙って聞いている。
   その目に涙。

若林「今では女神湖と呼ばれて、百年に一度、
   天空から女神が舞い降りて来るそうだ。
   ・・・僕が作った伝説だけどね」

晶子「私・・・父を殺したんです。七年前。
   ・・・・小学校6年生の時」

若林「・・・・そう」
晶子「大きなハムスターの焼きものを父に投げ
   つけて。父は階段を転げ落ちて死にました。
   私が殺したんです」

○イメージ
   7年前の晶子の家の玄関。
   階段下に父斉藤秀夫が頭から血を流して
   倒れている。粉々になった陶器の破片。

   血だまり。目をむいた斉藤の横顔。
   脇に母英子が泣き崩れている。

晶子の声「母がかばってくれて警察も医師も忙
   しい時と重なり、すぐに事故死として処理
   されました。泥酔による転落ショック死。

   致命傷は側頭部の陥没でした。打ち所が悪く
   焼き物が頭の上で粉々に砕けていたそうです。

   私は重いその焼き物を投げつけた反動で部屋
   の中に倒れてしまい、気絶していました」

若林「・・・なるほど」
晶子「すぐ気が付きましたが、下から母の
   『下りてこないで!』と言う絶叫が聞こえ、
   すぐに隣のおばさんが駆け込んできて」

○イメージ
   7年前の現場。
   母英子が泣き崩れている。
   玄関のドアが開いて隣のおばさんが
   駆け込んでくる。

おばさん「どうしたの奥さん?ああっ!」
英子「主人が階段から転げ落ちて・・。
   打ち所が悪かったみたいです。すみません、
   救急車と警察を呼んでください」