○レストラン、内
   三人で食事をしている。
晶子「・・・というわけで、全部若林さんに話したの。
   そうしたら気持ちがすっとして、元気になれたの」

英子「なるほどね、よく分かったわ。
   若林さん、ご苦労様でした」
若林「いえいえ。・・・で、お母さんは今?」

英子「私は今ブティックを3軒抱えて大変。恋する暇もないわ。
   それというのも、死んだ主人のおかげだけどね」
   英子、タバコに火をつける。

英子「今のお金で1億円。保険と退職金で手に入った多額の現金。
   新しい人生に全てを切り換えたわ。一度しかない自分の人生。

   思い切りが必要と。そして今の男勝りの私がある。
   こんなじゃなかったよね晶子、昔のママは」

晶子「そうよね。外では何もできない専業主婦そのものだったよね」
英子「人って変わるもの。ある瞬間からすべてが」
若林「ある瞬間?」

英子「そう・・・ある瞬間から」
   英子、遠くを眺めタバコの煙を吐く。
   若林と晶子、顔を見合わせる。

英子「主人を殺したのは私よ」
若林と晶子「えっ?」
   英子、タバコの火を消しながら、

英子「秀夫が階段から落ちた時はまだ生きていた。ハムスターの陶器
   を胸に抱えて横顔を床に強く打ちつけ気を失っていた。
   私は思わず大声で叫んでいたわ」

○回想、晶子の家の玄関、内、夜
   絶叫の英子。
英子「キャーッ!下りてこないで晶子!来ちゃだめよ!キャーッ!」

   階段下に秀夫が顔を横にして倒れている。
   血は流れていない。

   秀夫は胸にハムスターの陶器を抱えている。
   脇に英子が立っている。

英子の声「とっさに私は秀夫の胸の置物を高々と持ち上げて、
   思い切り秀夫の側頭部にたたきつけた」

   秀夫の胸の置物を両手で取り上げ、
   ものすごい形相で叩きつける英子の顔。
   瞬間目をつむる。

英子の声「ぐしゃっという鈍い音が聞こえて、陶器は粉々に
   割れた。私は流れ出る血だまりにへたり込んだ」

   粉々の破片。
   血だまりにへたり込む英子。
   玄関のドアが開いて隣人が駆け込んでくる。

隣人「どうしたの奥さん?あっ?」
   隣人、異常な状況に気づく。
   放心状態の英子の顔。