………



「で、でも!平田くん私のこと覚えてなかった!」



「は?」



「だって始業式の日、ドアの前で…」



「あぁ、なんで名前知ってんのかなって思って、なんか1人でテンパった」





なんだ…


覚えてくれてたんだ。




驚いてたの私だけじゃなかったんだ。





でも…まだ気がかりがひとつ。



ここまで聞いて

まだ不安なんて…私やな奴。



スッと平田くんから離れる。




「…じゃあ、なんで…。
どうして、みーちゃんのこと…澪ってよぶ…「さより。」




私の質問は


平田くんの声によって遮られた。




「さより…って呼んでいい?」



「…うん」




どうしよ

すごく嬉しい



…じゃなくて!答えは?




そう思って

平田くんを見つめると



いたずらな笑みを浮かべて




「答え、知りたい?」




う。ちょっと怖い


でも…ちゃんと聞かなきゃ。




コクッと小さく頷く。




「それは…」




どうしよ…不安。


やっぱり聞きたくな…



「あいつにそう呼んでって言われたから流れで。」



へ?


なにそれ…流れ?



良かった…けど、さ



私、すごく不安だったのに


流れ…




なんだか急に気が抜けて

視界がふらっとしたとき




「おっと…」



平田くんの腕に支えられて

また抱きしめられた。




「あぶねーな、お前。つか細すぎ。
ちゃんと飯食えって俺言ったし。」


「うん…ごめん。」



お説教とは裏腹に

楽しそうな優しい声。




すると

パッと少し離れる私たち。



そして

私の顔を覗き込んで



「それより…さよりってヤキモチ焼なんだな」



ニッとまたいたずらな笑み。




ずるい…そんな笑い方。




そしてまた…



「…っ!」



平田くんの腕の中。




「ヤキモチ焼いてもらえるって
思った以上に嬉しいのな。」




なんで…


平田くんのこと疑って

仲のいいみーちゃんに嫉妬して

こんなぐちゃぐちゃな心の私を。



汚いこの気持ちを…




「嬉しい」



なんて優しい言葉で受け止めてくれるの?




「…っごめ…ごめんなさいっ」




また流れてくる涙。




そんな私の涙を

自分のワイシャツの袖で拭いながら



「なんでさよりが謝んの。
不安にさせたのは俺じゃん。
本当…かっこわる。」



「かっ、かっこ悪くなんかないよ!」





いきなり大っきい声を出されて驚いたのか

平田くんの目はまん丸




「平田くんは…
優しくてかっこいい…もん…。」






平田くんのまっすぐな瞳に気圧されて


私の声はだんだん小さくなった。




あー

なんで最後まで強気で言えないかな。





はずかしそうに


でも嬉しそうに微笑む平田くん。





やっと

初めて

私の力で平田くんを笑顔に変えられた。





「あ。てか…」




なんだかニヤリとした平田くん



「…?」



「俺、さよりから聞いたことない。」



「何を?」



「好き、って。」




な、なんで…


確かに私…言ってないな。





う…そんなまっすぐ見つめないで下さい。




でも…


平田くんが好きって言ってくれて



私、すごく安心できた。





平田くんも…不安なのかな?





なら、私にできることは…したい。






それに


ちゃんと伝えたい。





よ、よし。


できる、できるぞ。




平田くんの目を見て


一度静かに息を吸いこんで





「…好き。」