それでも、奈々に事情を話して、カフェまで忘れ物を取りに行ってもらおうにも、その携帯も手元にないから連絡のつけようもなく、渋々、引き返すしかなかった。

番号を暗記しているわけでもないし、手帳に控えてはいるけれど、その手帳もバッグの中だ。

公衆電話から自分の携帯に電話をかける、という手段も考えたのだけれど、だから財布もバッグの中だってば!アホかあたしは!と、激しく自分にツッコミを入れただけに終わり……。


「……な、なによ葉司、その目は。ちょっと走りたくて走ってきただけよ」

「分かってるよ」

「ち、違うからね!」

「大丈夫、分かってるって」

「……、……。……帰る」

「気をつけてね」


と。

カフェに留まり、全てを見透かしたように微笑む葉司にバレバレの言い訳をしたあたしは、いそいそとコートを羽織り、バッグを持った。

恥ずかしすぎる。

恥ずかしすぎるぞ、あたし……。


さっき、大声を出してしまった手前、店員さんやほかのお客さんの目も気になるあたしは、財布から千円札を出してテーブルに置くと、逃げるように出入り口へと走った。

早く逃げ帰ってしまいたいのだ、猛烈に。

すると「マコ!」と呼び止められる。