けれど、メルさんにはそんなの関係ない。
まるで引き離される恋人同士のようになってしまった奈々とあたしに構うことなく、そのまま校門を出ると、脇に停まっていた高級感たっぷりの車に押し込まれてしまった。
すぐに反対側のドアを開けて車に乗り込んできたメルさんは、威圧感たっぷりに一言。
「出してちょうだい」
それだけを言うと、座席に深く背中を預けて目を閉じ、それから何も言わなくなった。
あんなに優しくしてくれたメルさんだもの、間違っても拉致ということはないだろうけれど、どこに連れて行かれるのか、という恐怖よりもまず先に立つのは、彼女の雰囲気だ。
運転手の男性も、スーツに身を包み、格好こそ執事のようだけれど、後部座席からちらりと見えた横顔には、頬に目立つ切り傷があって。
もしかしてメルさんって、オトコの娘は表の顔で、そういうところの若頭的な人だったりするの!? と、あらぬ想像がかき立てられる。
それでも車は進み、街中を抜け、郊外をひた走り……やがて、大きな屋敷に入っていく。
そこは、ホワイトハウスを思わせる外観の洋邸で、あたしのような一般人は、一生に一度、お目にかかれるかどうかという大豪邸。
漫画や小説などで出てくるような、いわばフィクションの世界、そのものだった。


