けれど、あたしは今、そんな奈々を抱きしめるどころでは、正直ないのが実情だ。

可愛らしく小首をかしげながら目をパチパチとしばたかせる奈々に長いため息を吐き出すと、折り入って相談がある、と打ち明けた。


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「“オトコの娘"? なんじゃそりゃ」

「やっぱり奈々も知らなかった? あたしも知ったのは金曜日でさ、土曜日なんかオトコの娘カフェに連れて行かれちゃったよ……」

「あれあれ」


先に奈々の用事を済ませ、場所を大学近くのファーストフード店に移したあたしたちは、新作のハンバーガーセットを少し早めのお昼ご飯にしながら、折り入った相談事をはじめた。

週末の珍事件を話すと、まず奈々の口から出たのは“オトコの娘"とはなんぞや、という疑問。

奈々も知らなかったようで、葉司が見せてくれたワキペデュアの画面を出して見せると、ときおり「ほぉ」とか「まぁ」なんて言いながら、画面を食い入るように見ていた。


「それで、葉司君はなんて?」

「これからのことは全部あたしの判断に任せるって言ってる。でも、それってズルくない? 葉司はカミングアウトしてすっきりしたかもしれないけど、あたしはどうしたらいいか……」