「仕方ないわね。本当は、お風呂上がりはしばらく裸でいるのが好きなのだけれど、まことちゃんにお話もあるし、着替えるわ」
けれど、あたしをからかうのをすぐにやめたメルさんはすっと立ち上がり、クローゼットがある方向なのだろう、そちらへ歩いていく。
さっき野宮さんも、これから出勤なのだから、と言っていたし、これで、いつも見ているメルさんになって戻ってきてくれるはずだ。
ほっ……。
そうして、野宮さんに例のコーヒーを淹れてもらったあたしは、ソファーに腰かけ、それを飲みつつ、しばしメルさんを待つことにした。
例の、というのは、クリスマスのとき、メルさんに淹れたインスタントコーヒーで、たいそう気に入った彼女が、あたしの部屋からの帰り、スーパーに寄って購入したものだ。
「毎日飲んでおられますよ」と、野宮さんがコーヒーの大瓶をかざして見せてくれるものだから、あたしは頬が緩むのを隠せなかった。
「お待たせしちゃったわね、まことちゃん」
そうこうしていると、ほどなくして、ちゃんと服を着たメルさんが戻ってくる。
あたしの向かいに座ったメルさんは、いつも通りの妖艶なメルさんで、どちらのメルさんでもメルさんだ、なんて思ってはいても、結局はこの姿のほうが落ち着くのだと実感させられる。


