あたしの軟膏を塗ってから傷の治りがいいらしく、先日『ねこみみ。』に出勤できた、と純平から聞いており、すでに知っている。
あんなに手料理を喜んでいた葉司なのだ、葉司父のことも含めてメルさんに報告をし、そのときにでも、あたしの話題が出たのだろう。
竹山のこともそうだ。
以前から呪いの呪文をかけあっている、いわば天敵同士の2人ならば、バレンタインという大きなイベントを目前にして、それをやいやい言い合わないわけがなかったのだ。
なんやかんやで、うまいこと竹山に焚きつけられ、こうして、部屋もメルさん本人もチョコまみれになっているに違いない。
合点がいきましたよ、野宮さん。
「分かりました、やりましょう!」
「……ほ、本当ですか!?」
「ここまで連れて来ておいて、今さら何を言っているんですか、野宮さん。あんな怖いメルさんのこと、いくら子グマと揉み合った野宮さんでも鎮められないでしょ。チョコを作るしか方法がないんだから、作るしかありませんよ」
「恩に着ます……!」
本気で涙ぐむ野宮さんに力こぶを作ってみせ、なおもチョコを撒き散らしながら悪態をついているメルさんに、あたしは声をかける。
「お待たせしました~!」
「遅いわよっ!!」


