そうして到着したお屋敷は、相変わらずの絢爛豪華さであり、野宮さんに「こちらへどうぞ」と案内されて入ったメルさんの部屋も、相変わらずのハイセンスぶりで、一瞬、入ってもいいものだろうか……と、おののいたほどだ。

けれど、この前来たときとは明らかに違う点がひとつだけあり、それは、部屋に一歩を踏み入れた瞬間に、分かったことだった。


「きえぇぇいっ!! これだからバレンタインって嫌いよ!! なんなの!? なんでこのあたしがチョコまみれにならなきゃいけないのよっ!!」


……メルさんの、見事なまでの暴れっぷりだ。

部屋中にチョコを撒き散らし、メルさん本人も服や顔や、どうしてそうなったのかよく分からないのだけれど、髪にまでチョコのしぶきをつけ、奇声を発しながら悪態をついている。

メルさんがまだ、あたしたちが部屋に入ったことに気づいていないようなので、状況を把握するためにも、一応、野宮さんに聞いてみる。


「どうしたんですか、これ」

「竹山様というお客様に、どうせ不器用なのだろう、という意味のことを言われたらしく、ご立腹になったお嬢様が、お店の皆さんやお客さま方に手作りチョコをお配りになるそうです」

「ああ……」