それから1週間ほど過ぎた頃だろうか。

バレンタインデー当日を迎え、奈々と純平にチョコを配り、講義も終わったことだし、さあ帰ろうか、と思った矢先のことだった。


「石田様、お迎えにあがりました」

「のわあぁぁっ!! 野宮さんっ!!」


校門の影からぬっと出てきた野宮さんにそう声をかけられ、予想だにしていなかった登場の仕方に、あたしは飛び上がって驚いた。

あたしを「石田様」と呼ぶ人は野宮さんしかおらず、かつ、執事的な言葉遣いに、ビシッと着こなされた黒いスーツ、頬の目立つ傷。

誰!? と一瞬でも思いたかったのだけれど、全てが野宮さんのトレードマークなもので、飛び上がりはしたものの、驚いたのは、彼のその、ぬっと出てくる登場の仕方だけだった。


「大変失礼いたしました。ですが石田様、お嬢様がお屋敷でお待ちしております。申し訳ございませんが、お急ぎ願えますでしょうか」

「え、ああ、はい」


野宮さんが登場した、ということは、メルさん絡みで間違いないのだ、それに、メルさんが待っているというのだから、いついかなるときでも馳せ参じなければならぬだろう。

後部座席のドアを開けて待っている野宮さんに短く返事をすると、あたしはいそいと車に乗り込み、シートベルトをしめた。