実は、料理にハマったのはいいものの、肌が弱いらしく、食器洗いの洗剤に負けてしまい、皮膚科で軟膏を処方してもらったのだ。
綿の手袋をかけ、上にゴム手袋をして食器を洗ってはいるのだけれど、真冬ということもあって、なかなかこれが、治りが悪い。
それゆえ、トイレのあとなど、手がカサつけばすぐ塗れるよう、持ち歩いているのだった。
「……あ、ありがと」
「しゃべらないで。ちょっと黙って」
コクコクと頷くと、なぜかぴっと背筋を伸ばして正座をする葉司に、あたしは何を今さら緊張しているんだ、と思いつつ、軟膏を薬指に少し付け、口もとの割れた傷口に塗る。
ほんと、何を今さら緊張しているんだか。
葉司に緊張されてしまうと、あたしだって緊張がぶり返してしまうのだ、勘弁してくれ。
「はい。もうしゃべってもいいよ。しばらくはしみると思うけど、そういえば、って思い出した頃には、痛みも引いてるはずだから」
「ん。ありがと」
そうして軟膏を塗り終わると、あたしは改めて箸を持ち、ご飯をぱくり、食事を再開した。
けれど、葉司は箸を置いたまま、ぴっと背筋を伸ばした正座の姿勢を崩そうとせず、じーっとテーブルを見つめ、表情を固くする。


