なんだかんだで、葉司父は可愛い人だ。
うん、可愛い。
「……あ」
けれど、これにて、まるっと一件落着だ、とほっとしたのもつかの間、重大なことを思い出したあたしは、思わず声を上げてしまった。
残念ながら、出発までにはまだ少し時間があって、今から急いで部屋を出れば間に合うかもしれない、ということではないのだけれど、それにしても、これはなかなか重大である。
「ん? どうした、マコ」
「あたし、お父さんに嘘をつきっぱなしのままで見送っちゃった!あとで訂正しよう、訂正しようとは思ってたんだけど、すっかり忘れちゃって。お父さん、あたしたちがつき合ってるって思ってるよ。どうしよう……!」
のん気に聞いてくる葉司の頭をばっと胸から放し、あたしはあわあわと取り乱れる。
しかも、お互いに名乗りあってもいない……。
それでも「お嬢さん」「お父さん」と呼び合うことで支障なく会話は成り立ち、こうして、葉司父の愛を葉司に言づてる、という役目も果たせたわけなのだけれど、なんてことだ。
「すみません、元カノなんです……」と打ち明けられないまま見送ってしまうとは、あたしにだけしか告白しなかったこともあるというのに、葉司父に申し訳が立たなさすぎる。


