以前、別れたばかりの頃、奈々と一緒に葉司の様子をこっそり見に行ったときも、ひっきりなしに指名されるほどの人気ぶりだったのだ。
葉司にとって『ねこみみ。』は、オトコの娘の仲間がたくさんいて、かつ、あれほどどん欲にほしがっていた優しさを無条件で与えてもらえる、パラダイスのような場所と言えよう。
そんなパラダイスを、たとえ本心からではなくとも否定しても、自ら出て行くことなど、葉司にはできなかったのではないかと思う。
オトコの娘の葉司も、男の子の葉司も、この話題については複雑極まりない心境なのだ。
しかも、その原因を作ったのは、このあたし。
間違っても、あたしに「メルさんに何をひどいことを言っているの、もっかい謝りなさいよ」と言う資格はなく、また、こちらから葉司に会いに行く資格も、あたしにはない。
「あ、そうよ。そうそう!」
すると、パチンと手を叩いたメルさんが、何かを思い出したようにあたしに目を向けた。
まるで、葉司のことはこれを話すための布石だったとでも言いたげな、そんな明るい表情だ。
「なんですか?」
「ぜひ、まことちゃんの耳に入れておきたい話があったの。竹山のこと、なんだけどね」
「はあ……」


