「もちろん、まことちゃんがあんな目に遭った直後だったから、精神的に不安定な状態だったでしょうし、つい口をついて出てしまったのは理解できるわ。すぐにハッとして『ごめん、言いすぎた』とも謝ってくれたしね」
「そう、でしたか……」
けれどメルさんは、コーヒーを一口飲んで「ああ、美味しいわ」とひと息ついたあと、わずかに表情をくもらせ「でもね」と続ける。
「なんていうのかな、ショックだったのは否定できないわね。悲しかったし、腹も立ったし、それが愛菜の本心だったのかって、ちょっと裏切られた気持ちにもなったわね」
「ごめんなさい、メルさん。葉司もきっと、心の底からは思っていないと思うんです。あたしがバカなことをしちゃったから……」
「ううん、いいのよ」
「でもっ」
「いいのよ、本当に。まことちゃんが感じた恐怖に比べれば全然だし、その手のことには、ちょっとばかり強いのよん、あたし」
そう言って、メルさんはうふふっと笑い、冗談めかして力こぶを作ってみせた。
その仕草があまりにも似合わなさすぎて、あたしは思わず、ぷぷっと笑ってしまう。
でも、ああ、そうか……。
あたしはそこで、ようやく気づく。


