知らないところに急に連れてこられて、知らないオトコの娘がいっぱいいる中に放置されて、分かったことといえば、この店での葉司の名前は“愛菜”ということくらいだ。
誰だよ、愛菜って。いや、葉司だけど。
ちゃんと出勤しろよ、アズミ。
もう何がなんだか……。
ああ、意識が遠のいていく。
と。
「まあまあ、大丈夫? どうかしたの?」
「ふぇ……?」
後ろに倒れそうになったところを誰かがふわりと抱き止めてくれたらしく、あたしはその人に顔を向けながら、気の抜けた声を出した。
目を開いて見てみると、やっぱりオトコの娘。
けれど、ほかのオトコの娘とはどこか雰囲気が違っていて、例えるなら次元が違うというのだろうか、すごく綺麗で、まるでお人形さん。
おまけにバラの香りまで漂ってくる。
「あなたにはちょっと刺激が強すぎたかしら。意識、しっかりしてる?」
「は、はい……」
「あたし、メルっていうの。あなたは?」
「石田まこと、といいます」
抱き止められたまま自己紹介ってどうなんだろう、とは思ったものの、メルさんの圧倒的な雰囲気にすっかり呑まれたあたしは、まるで誘導尋問にかかったように答えてしまった。


