淡い初恋

「昔、中国に荘子と言う人がいたんだけど彼は妻を疑うあまりに結局は妻を失ってしまったの。」いきなり何を言い出すのかと思った。「つまり、いらぬことで疑い、相手を信じなくなると、その人は呆れて自分から離れていってしまうってことなの。」と言うので「はぁ・・・。」と相槌を打った。「なんでそんな昔の中国の偉人に詳しいんですか?」と聞くと「韓国ドラマでグンちゃんが言ってたのよ!」と急にキャピキャピし出した。「グンちゃん?」と聞き返すと「なんでもないわ。」と言って志保さんは真顔に戻った。

「私の知る限りでは龍之介は浮気をするような奴じゃなかったし、希ちゃんにぞっこんだった。だから、希ちゃんが浮気を疑い、彼を遠ざけたとしか思えない。」と言うので思わず「えー!?」とわざとらしく大声を上げた。

疑うって。決定的瞬間を目撃したのに、何が違うって言うの?露骨に眉間にシワを寄せて志保さんを見上げると彼女は苦笑いを浮かべた。「いつかきっと真実が明るみに出るよ。」と言うと弟さんと子供を連れて去ってしまった。

真実・・・?
なんだろう、変な胸騒ぎがした。もしかして根本を揺るがすような何かが起こるような予感がした。