淡い初恋

金曜日の学校帰り、気晴らしにとカラオケ店に連れて来られた。「え~、ここ!?」と私は愕然とした。嫌いだからずっと来てなかったのにと思っていると「な?気晴らしになるだろ?」と無邪気な笑顔で言われた。それは龍くんが何も知らないから。私は、あぁ、と思うともうどうにでもなれと思い、半ばヤケでカラオケ店の中に入った。

最初に龍くんが歌い始めるとあまりの上手さに私は開いた口が塞がらなかった。どうしてこうもなんでも出来るんだろうと思っていると彼が歌い終えたため、私は拍手をし「龍くん、歌上手だね~。」と彼を褒めた。彼は、私の褒め言葉が嬉しかったのか、はにかむと「次は希の番。」と言い、私にマイクを渡してきた。「あの、下手だから。本当に下手だから笑わないでね。」と念押ししても「あぁ、分かった。」と言われるだけだった。本当に下手なのに~と思っているとイントロが流れたため私は両手でマイクを持ち、構えた。そして歌声を披露した瞬間、彼の顔が一瞬歪んだ気がした。

あ~苦笑いを浮かべてるよ。やっぱりね。でも、もう良いの!ヤケだから!音痴でも歌い切るから!!

数曲歌って、段々惨めになり、もうこれ以上恥は晒したくないと思った私は「もう、飽きた。」とつぶやいた。龍くんは「出よっか。」と言うと二人、カラオケ店を後にした。

その後、彼が手を繋いできても私は握り返さないで、ずっと俯いて黙ったまま歩いた。