メール編
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八月の終わり、蝉の鳴き声も落ち着き、時折涼しい風が木々の葉を揺らす。

ザザザアーと心地よい音が響く。

雲の少ない空はどこか清々しく、緩やかに流れていく。

まだ残暑であったが、それほど苦になるほど暑くはない。

水月雫は小さな公園で携帯電話をいじっていた。

雫の他には誰もいない。

そよ風が公園の端に立つ背の高い一本の木を揺らし、雫がはく黒いスカートを揺らす。


ザザザアーと木々のさざめきが公園を満たす。

滑り台。

ジャングルジム。

砂場。

ベンチ。

他には何もない。

いやこれだけあれば公園としての機能は十分働くだろう。

しかし、それは遊ぶ者がいてこそであり、ここには携帯をいじる少女しかいない。

昼間から公園で時間潰す中学生は、恐らく道行く者には珍しく見えるだろう。

かと言って雫は学校を抜け出した訳でも、不登校でもない。

今日、雫が通う学校で不幸な事件が起きた。

それが原因で生徒は途中で強制的に下校させられたのだ。