「それで、何? さっきの話?」

女子高生達は暢気な声がまた聞えてくる。凪は顔を下ろし、前を向いた。そして、覚悟を決めた。

もう逃げないと。

そうして大きな一歩を踏み出し、信号を渡りきった。悪夢は繰り返さないと。それが今僕にできることなのだから。

「そうそう、あれ知ってる。あれ?」

「あれって何さ? はっきり言いなよ」

信号が赤に変わる。女子高生達は横断歩道を渡り切ると、周りに聞えるように声高く言った。

「ネット伝説――マー君」

「マー君って」

「そう」

女子高生達の声は次第に人込みの中に消えていった。いつしか、凪の姿も人の群れの中に消えていた。

「ネット上の殺人鬼、マー君」

人は今日もまた偽りの仮面をつけ、生きていく。