マー君ウィルス――寄生型ウィルスはウィルスの発信源がいなくなると、その効果も消えた。感染者を操っていた心虫も消滅し、また卵へと戻っていった。

変異していた人々も、元の姿へと戻っていった。

後の研究により、あのマー君ウィルスは視覚になんらかの作用を起こすことがわかった。

つまり、人が異形な物になったのではなく、感染者の視覚から特殊な光が発せられ、それが我々正常な人間の視覚に入り込み、恐怖を見せていたという。

人の目は光を反射することにより物を見ることができる。マー君ウィルスとはその光の屈折によるものである。

感染者の脳から目へ特定のパターンの信号が送られ、心虫を孵化させ、対象を操る。更に、感染後彼らの脳から目へその信号が発せられる。

その光を見ることにより、周りの人間に一種の幻覚を見せる。あたかも変異したように。

ある理論では、人は恐怖すると時に視覚になんらかの作用がもたらされ、それが別な物に見せてしまうということがある。蝿を蜂と見間違えてしまうなど。

それが、その脳から発せられる信号に何か関係があるかははっきりしていないが。

仮面も、異形の姿も、その幻覚、光の屈折により映し出されたものだ。感染者はもとから異形な姿に変化していなかったのだ。

ただ、僕らの視覚が恐怖したのだ。マー君という存在に。

そして、その恐怖がありもしない物を見せていたというのだ。

つまり、人の目が恐怖というものに屈し、マー君ウィルスという未知なる光に屈したのだ。

それが政府の公式な発表であり、その言葉の通り感染者は元の姿に戻ったのだ。