後書き

「ねー知ってる?」

「何が?」

賑やかな繁華街に女子高生の甲高い声が響く。

道行く人々は女子高生達を無視して自分の目的のため、歩を進める。その後を歩く背の低い、帽子を被った少年は、ぼうとする中、はっきり聞えてくるその声に耳を傾けた。

広い交差点の中、信号が青になり、一斉に人が歩き出す。

女子高生達もその人の波に流されながら、交差点を渡る。その後を、少年――鳴海凪もついて歩く。

夏もそろそろ終わろうとしている。

しかし、都会にはまだ暑さが残り、強い日差しが地に降り注いでいる。まるで何かを忘れさせないように、しぶとく。

凪はふと灼熱の太陽を見上げ、顔をしかめる。今日はいつにもまして暑い。

「平和だね」

ふとその言葉が口から漏れた。

マー君が消え、一ヶ月。

世界は元の姿に戻った。

偽善たる仮面をつけ、人間は今日も生きる。生きていくために、嘘で顔を覆い隠し。

謎のウィルスは宿主となるマー君、間宮が消えたことにより消滅した。と、同時に、黒の仮面の消息もわからなくなった。鳴海凪は今もまだ行方がわからない黒の仮面の仲間を探している。

こうして街を歩いていると、ばったり会えるので、そんな浅はかな思いを秘めて。だが――。

「僕らは、どうしてこんな所に来てしまったのかな? ただ、救いたかっただけなのに――」

それなのに、大切なものを失った。そう感じてしまう。本当にこれでよかったのかと。

全ては闇の中へ消えた。

人々はこの事件をマー君怪奇事件と呼んだ。