マー君(原作)

美代と呼ばれた黒髪の女は普通の格好をしており、どちらかというと春香側の人間である。

彼女は悲しそうに目を細めると、心の声で「ゴメン」と謝ってから春香の頭を叩いた。

だが、痛みはない。美代は手加減して叩いたのだ。

それでも、勇気達に察されてはと、春香は痛そうな顔をする。

それを見て勇気は満足気に微笑んだ。

まだ何かやるつもりなのだろう。

春香は泣きたい気持ちを抑え、自分の机に顔を伏せた。

机には坂子のようにひどい落書きが施され、とても机とは呼べないものになっていた。

「さーて、次はどーするかな?」

勇気が腕を組み、含みのある言葉を吐いた。

春香はぎょとして机から顔を上げた。

と、その時ちょうど鐘が鳴り、勇気達は悔しそうに席を離れていった。

もはや私を救ってくれるのは、この鐘の音だけだ。

春香はぐったりと疲れ、机に顔を預けた。

窓の方を向いてだ。

そうしないと視界に誰かが入り、何かされる気がした。