マー君(原作)

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職員室に戻った桂子はぐったりとしながら、自分のデスクに着いた。体育の時間は一組、二組合同で行われ、一組と二組の教師どちらかが監督することになっている。

桂子は具合が悪いといい、監督を一組の担任の篠田に任せた。

「はぁーやばいな。こんなじゃあ」

桂子がデスクで弱気になっていると、向かいのデスクの女教師――坂井が心配そうに声を掛けて来た。彼女は物静かで、穏やかな雰囲気を漂わせている人である。

話すだけならしっかりした教師に見えるが、内面はどこか頼りなく、いつも周りの意見を取りいれる傾向がある。

そんな教師から声を掛けられる時は、いつも何か心配事がある時だ。

「三原先生の方も、マー君ですかぁ?」

「ええ、そうなんです。そっちはどうですか?」

桂子はデスクの上を片づけながら、さり気なく聞いた。予想した通り、坂井は周りの目を気にするように前かがみになり、小声で話してきた。

いつも何か相談する時、彼女はこうするのだ。

前かがみになると、彼女のウェーブが掛かった髪が肩から動く。茶色の髪が恵子の目に鮮やかに写る。

香水をつけているのか、微かに臭いがする。

「それなんですけどぉ、うちのクラス、最近ってか、今日マー君を探し出すとか言い出す生徒がいて、大変だったんですよ」