マー君（原作）

その素顔を見た途端、春香は何も言えなくなった。

ただ、フェンスの前でこっちを睨んでいる坂子を見つめ返すしかなかった。

坂子はフェンスの一番上にまたがり、目をぎらつかせながら怒鳴りつづけた。

「あんたに何がわかんだよ！　ええ！　私はもう死ぬしかないのよ！　あんた達のせいでね！

わかる？　この気持ち！　いじめられる側の気持ちがよぉ！　私は孤独なのよ、誰からも愛されず、誰からも信じられない。

その気持ちがあんななんかにわかんのかよ！」

その言葉は春香の胸に深く突き刺さった。

春香は息を切らす坂子をじっと見つめ、改めて自分の立場を実感した。

私はクラスの人気者。

皆に好かれ、信じられる――坂子とはまったく反対の人間。

私は――坂子とは違う人間。

仮面をつけた人間。

でも、今の坂子は違う。偽りの仮面をはぎ、私に胸の内を打ち明けている。

私になくて、坂子にあるもの。

それが素顔。

素顔。

本当の自分……。

偽りのない、自分。

「何か言ったらどうよ！　何も言わないなら、言わない、なら……」

坂子はフェンスを超え、飛び降りようとした。

「死んでやる！　こんな世界私には必要ない！」