ハッカー編
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ハッカー編

コツコツコツ・・・・・・。


暗い路地に響く足音。夜の暗闇に沈むような細い道。月夜がはるか遠くに見える。ゴミが散乱した道に、冷たい風が入り込んでくる。

その中にぽつんと置かれた雑誌が風でガサガサと耳障りな音を立てている。

笹成幸はその路地のゴミバケツの陰で息を潜めていた。

彼は肩まで垂れている黒髪を汗で濡らし、掛けている黒縁眼鏡は曇っていた。

痩せこけた体は、新鮮な空気を求めるように大きく上下に動いている。着ている黒いTシャツに汗の形がくっきりと浮かび上がっている。

「ハァ、ッハァ・・・・・・」

小さく息をし、ゴミバケツの陰から前方を伺う。今路地に一人のダークスーツを着た男が近づいてきている。そいつは何かを探すように首をキョロキョロさせている。

成幸は顔を下げ、持っているリュックを握りしめた。

このままじゃあ見つかる!

足音はどんどん近づいてくる。成幸はどうすることもできず、たたひたすらリュックに顔を埋め固まっていた。