マー君(原作)

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Enterを力強く押す。画面に良一が打ち込んだ文字が現れるはずだった。

が、マー君の文の下に現れたのは、良一が打ち込んだ文ではなかった。

別な人物――バッハのものだった。

どういうわけか、自分が打ち込んだ文字が表示されない。

そこで気づいた。

今押したのはEnterキーではない。

その隣の小さなボタンを押していた。

自分では覚悟を決めたはずなのに、手がそれを無意識に拒否していたのだろう。

逃げたい……。

そういう気持ちがどこかにあったのかもしれない。

良一は震える手をなんとか落ち着かせようとした。

「くそくそくそくそっ! 動けよ、俺の、手!」

その声に反応してか、また手が動くようになった。

すぐに打ち直そうとしたが、その前にバッハが打ち込んだ文字が気になった。

ふと読んでみると、それは良一の意思とはまったく反対のものだった。

それは昔の自分を思い出させるようなもので、見ていて腹が立った。