マー君(原作)

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桐原は始めその黒い影は壁だと思った。

が、次の瞬間黒い影が前へ、こっちに向かってきた。

桐原は咄嗟に後退しようと足を動かしたが、その前に黒い影から声を掛けられた。

「ちょ、ちょっと待ってくれ! 何もしないから」

その声はやけに穏やかで優しかった。

それにその太めの声は聞き覚えがあった。

あの、ゲームが始まる前に皆に呼び掛けた声だった。

それらの要素に桐原の足は鈍くなり、いつの間にか逃げることを忘れていた。

「あんた、は?」

恐る恐る黒い影に尋ねる。

KPSは桐原の背中に隠れ、黒い影を警戒している。

尋ねられると、黒い影は咳払いをして前に、こっちに進み出る。

すると、闇の中から中年の白髪の男が現れた。

彼は穏やかな顔をしており、紳士的だった。

黒いスーツを着こなしており、どこか威厳を感じさせる。

しかし、白い髭で顎が見えない顔には満面の笑みが広がっていた。

彼は桐原とKPSをじっと見てから、桐原に手を差し出した。握手ということだろう。

だが、桐原はその手を握らず、再度同じ質問を繰り返した。

「あんた、は?」